トム・ピーターズの経営破壊
トム ピーターズ Tom Peters
阪急コミュニケーションズ 1994-11
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経営論といいながら、「経営破壊」などというふざけたタイトルの本を紹介していいものでしょうか。おまけに表紙には、著者のトム・ピーターズ氏が上半身はスーツにネクタイ、下半身はパンツ一丁で裸足、といういでたちで写っているのですからなおさらです。ちなみに原題は『Crazy Times Call for Crazy Organizations』となっています。「いいんだよ。世の中が狂ってるんだから」というところでしょうか。
誤解しないでいただきたいのですが、トム・ピーターズ氏は、決してウケ狙いのアヤシイ一発屋ではありません。1982年に出した処女作『エクセレント・カンパニー』が日米で大ベストセラーとなって以降、『エクセレント・リーダー』『経営革命』『自由奔放のマネジメント』と次々とベストセラーを送り出してきたアメリカで人気抜群のコンサルタントなのです。
エクセレント・カンパニー (Eijipress business classics)
トム・ピーターズ ロバート・ウォーターマン 大前 研一
英治出版 2003-07-26
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組織解体のすすめ (自由奔放のマネジメント)
トム ピーターズ Tom Peters
ダイヤモンド社 1994-01
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この本も出版されてからもう10年になりますが、今でも私は本棚や鞄の中にこの本をしのばせていて、時折とりだしては元気づけられています。この本がすばらしいのは、たとえば突然こんなフレーズに出会うところです。
…あなたの会社では、「机の上はいつもきれいに」などという標語を掲げていないか。もしそうなら、間抜けな会社にちがいないし、そんなところで働いているあなたも間抜けだ。…
う~ん。この文句に私は一発でやられてしまいました。その「間抜け」とは紛れもない私のことだったからです。
それ以来、私はこのフレーズを400%に拡大コピーして、会社のデスクの前に貼ってあります。あるとき社長が私の後ろに来て、「ほう、きみは面白いことを考えているねえ」と言いながら通り過ぎていきました。でもその後特にクビになるとか、給料がさがるということはなかったようですね。意味がわからなかったかな?(笑)
こういう楽しいフレーズがこの本のいたるところに散りばめられています。たとえば...
「自分には絶大な権限があると思い込むことだ」
「従業員は経営者に盾つくように積極的に奨励されているか」
「経営陣に刃向かってこそ、いい仕事ができる」
こうしたフレーズを次から次へと拡大コピーして机の前に貼ってあるものですから、いつからか会社の女子社員の間で「○○さん、やめちゃうのかなあ」という心配とも期待ともつかない噂が広がっていました(笑)。
もちろん、ピーターズ氏はこういうひまつぶしのネタを読者に提供するためにこの本を書いたのではありません。彼のメッセージは一言でいうと「けったいな会社を創れ」というところにあります。
「けったいな会社」って何でしょう。
チャレンジ精神旺盛なある経営者は「子どもでも失敗確実とわかるような戦略が、会社の役員室で承認されている。役員室に子どもが一人もいないことが問題なのだ。」と真面目に(?)語っています。
また、任天堂の山内社長(現相談役)は、ゲーム設計者から「どんなものをつくればいいのですか」と聞かれて「何かすごいものを」と答えたそうです。
とピーターズ氏は言います。従業員のやる気に火をつけ、燃え上がらせ、想像力を解き放たせるうえで、こんなに効果的なセリフがあるだろうか
『何かすごいもの』は、任天堂やマイクロソフト社のソフト設計者や、超一流レストランのシェフ、ボーイング社の設計者でなくてもつくることができる。(中略)ホテルの室内掃除係だってできないはずはない。『何かすごいことをやれ』---上司のそんなひと言によって、掃除係が大ハッスルする姿が目に浮かぶ。
「けったいな」会社を創るためには、できるだけ「けったいな」人間を雇うこと、今いる社員を「けったいな」社員にすること。自分自身が「けったいな」やつになること。ピーターズ氏はこう問います。
胸に手を当てて考えてほしい。あなたは会社の廊下をスキップしながら歩いたことがあるだろうか。会社の食堂でダンスをしたことは?職場が退屈でたまらないと、あなたも思っているのでは・・・?
それにしてもこの本を読みながら気づかされることは、私たちが普段「会社」というものをいかに「すでにできあがった制度」として捉えているか、ということです。そして私たちの思考がいかに、会社に「所属する」こと、それを「維持する」ことをめぐってのものとなっているか、ということです。
大事なのは、「所属する」ことでも「維持する」ことでもなく、それを「どう使うか」ということ以外にはありえません。そうしてはじめてダイナミックな発想が可能になります。顧客の期待に応え、期待以上に応える組織が可能になります。
たぶん、損益計算書の読み方よりも、難しい組織管理論の勉強よりも、この本を読むことこそ現代の経営者がすべきことなのではないかと思います。いや、経営者だけではありません。言い忘れましたが、この本は決して経営者のためだけに書かれているわけではありません。会社の一員であって、会社をなんとかしようと考えている人、また自分の現場を、仕事をなんとかしようと考えているすべての人に向けて書かれていると考えていいと思います。
バリバリの経営者からバリバリの客室掃除係まで、さまざまな人々のいろんな言葉が、この本にはちりばめられています。ピーターズ氏は、決して自身の閉じた思想体系の中でものを語ろうとはしません。私たちは経営の「現場」で働くさまざまな人の話を(ピーターズ氏の言葉を通じて)聞くうち、知らず知らず本を閉じて、外の世界へと出ていくよう仕向けられているのです。
そういう意味で、この本を現代の最良の思想書に擬することもできます。大事なことは、本の中にとどまらないこと。気にいったフレーズを見つけたら、すぐさま本を閉じ、現場に出かけていくこと。
ピーターズ氏は次の言葉でこの本をしめくくります。
突飛さに欠けるところはありませんか?