2006年10月14日土曜日

上司の正面に立つな

ふと見ると、ある若手社員が上司に呼ばれて、何やらガミガミ言われてうなだれている。


「バカだなぁ」と思う。


こういう時、間違っても上司の正面に立ってはいけない。

「ちょっと来い」と言われて、相手の正面に行く。その顔を見ながら相手は小言を言いはじめる。

これを横から見ると、その様子は椅子にふんぞり返った上司とその前でうなだれる部下、という構図だ。


ここまでは仕方がない。小言を言うために呼ばれたのだから。

しかし、この構図が事態をエスカレートさせる。座っている相手の正面に立つ行為は、実は相手に威圧感を与える行為に他ならない。部下にしてみれば呼ばれたから行っただけで、上司が座ったままなものだから正面に突っ立っているしかないというわけなのだが、それでもやっぱり心理的にはまずい位置関係なのである。


最初は一言叱るだけのつもりだった上司も、無意識に威圧感を感じとっているものだから、訳もなくだんだん「何だこの野郎」という気分になってくる(笑)。自分も立って話せばその感覚もちょっとは薄れるのだろうが、座っている方が居心地いいに決まっているのでそんなことを考えつく道理もない。


こうして、短い小言のはずが「だいたいキミはだな」なんて具合にあれこれひとまとめにして延々と怒られる羽目になる、というのがありがちな展開なのである。


あらかじめ叱られそうな時とか難しいことをお願いしなきゃならない時は、正面ではなく相手の隣に回り込むべきなのだ。

隣というのはその人にとってプライベートな場所なので、この位置をとることで友達の関係に立つことができる。並んで立って相手と同じ方角を見やりながら、「そうですよねぇ。ぼくもそう思います」などと他人事のように相槌を打つ(笑)。

うまくやれば、誰しも友達の位置にいる人から同意されて悪い気はしないから、そのうち「そうか、君もそう思ってくれるか」などと、いつの間にか話の出発点を忘れてしまって戦友のような感じになってくる。


こうなればしめたもの。「ぼくもこれからは気をつけま~す」と切り上げて帰ってくるのもいいし、「ところであの件ですけど」と話題を変える振りをしながらそのまま友達モードで通しにくい話を通して、意気揚々凱旋してくるという高等テクニックもあり得る。


と、こんな話をある年の新入社員研修でした。

いい気分で喋って帰ってきて、そういう自分の浅はかさに気づいたのは新入社員が配属されてしばらくたってからだった。

彼(新入社員)が、何かというとぼくの隣に回りこんできて横から囁きかけるのだ。気持ち悪いったらありゃしない。

「お前なぁ」と言いかけて気づいた。


彼はぼくが教えたとおりに行動しているのだ。

その「素直さ」に驚くとともに、先のぼくの話には重要な前提が抜けていたことに今さらながら気づいた。


それは、隣に回りこんでいいのは、それが許される相手に対してだけだという当たり前の事実だ。隣という場所は、上で述べた通り「プライベートなポジション」なのだから。

隣に行けば無条件に「友達関係」になれる訳はなく、ある程度の関係を築いた者がこのテクニックを使うことでその関係を有効に利用できる、ということなのだ。


そう考えてみれば、やはり新入社員は上司の前でうなだれている他ないのかもしれない。そう思って翌年の新入社員研修からはこの話はなしにした。

そもそも、最初から要領よく立ち回る新入社員なんてのはあまり好ましいものじゃないですよね。

上の新入社員も、相手がぼくだったからいいようなものの、むやみに部長の隣に行って相槌打ったりしていると「誰の話だと思ってるんだ」と怒りを倍増させるところだった。危ない危ない^^;